若くない何かの悩み

何かをdisっているときは、たいていツンデレですので大目に見てやってください。

ソフトウェアエンジニアでテストマンな私が家を買う際にやったこと

はじめに

ソフトウェアエンジニアでテストマンを生業とする Kuniwak です。今回は家を買うためにやったことを紹介します。 というのも、家を買うためにやったことを知人に話してみたら面白がられたため、誰かの役に立つかもしれないと思ったからです。

なおこの記事はソフトウェアに関する技術の記事ではありません(随所に検証の基本的な考え方などが散りばめられていますが…)。また、この記事で紹介する意見・手法は多分に cocopon 氏の影響を受けています。cocopon 氏の家購入エントリもこの記事と同時に公開されているはずです。

また、この記事はとても長いので先にポイントを説明しておきます。この記事ではライフプランシミュレーションに始まり次のような3Dモデルを作って日照や照明の検証をしていきます。また、3Dモデルを作るだけでは漏れが出るのでさまざまな検証を組み合わせています:

検証のために作った3Dモデルのレンダリング結果

目次

家を買うきっかけ(ライフプラン編)

ライフプランを考えはじめたきっかけ

これまで漠然と貯蓄は維持できてるし、賃貸のままで老後も大丈夫と思っていました。しかし知人がライフプランシミュレーションをした結果、このままでは老後に破産する、あと家を購入した方が良さそうなどの知見を教えてくれたことから危機感を持ちました。そこで自分もやってみようと思い、まずは知人が相談した先であるソニー生命のライフプランナーに相談してみました(注: この相談は最終的には保険などの営業につながるのでそこは覚悟して相談する必要があります)。

この相談では、月々の支払い額、現在の貯蓄額、家族計画から経年での貯蓄の変化をシミュレーションしてもらいました。 このシミュレーションからこのままでは70歳手前で破産ということが発覚し頭を抱えました:

破産のイメージ図

「なんで破産!?」という理由は、老後は長い、ということに尽きると思います。現時点を30歳だとして、60歳で悠々リタイア(甘い想定)、90歳で死没とします。すると、それぞれの間は30年間であり30歳から働く期間と老後を過ごす期間が同じことに気がつくでしょう。年金は経済評論家によれば現在の額の60%ぐらいになるとのことですし、昇給やインフレを考慮せず資産運用にも頼らないというシンプルな条件では手取りの半分から年金額の60%を引いた額を貯蓄できなければ老後に破産します。なお年金額の概算は色々な web サービスでできますが、私はねんきんネットを使いました。ねんきんネットならマイナンバーカードがあればかなり簡単に公的年金の受給額の概算を確認できます。

さて、破産に話を戻しましょう。破産を避けるためにライフプランナーからアドバイスされたのは生活費の引き締め(特にお小遣い減額)で、ある程度引き締めると老後がマシになるとわかりました。ただ、支出に最も重くのしかかっていたのは賃貸住宅の家賃です。現状の家賃の水準では老後を過ごせないことがわかり、ちょっと絶望しました。

ライフプランをシミュレーションするサイクルが長すぎる

そこで、なんとか生活水準を維持できる道を探すために、色々な条件(持ち家、生活費の減額幅、家族計画など)でシミュレーション結果を観察することにしました。ただ、ソニー生命のライフプランニングでは条件変更を都度ライフプランナーに依頼しなければならず、シミュレーションのサイクルが数日かかると言う問題があります。そこで、ソフトウェアエンジニアですしライフプランシミュレータを自作することにしました

ライフプランシミュレータを自作しよう

ライフプランシミュレータを自作!と言うと大袈裟に聞こえますが、表計算アプリケーション(Excel や Google Sheets)にデータと計算式を打ち込んでいくだけで自作できます。実際私も高度にカスタマイズされた GUI は必要なかったので Google Sheets を選んでいます。

私のライフプランシミュレータの入力は、収入と支出とこれらを上下させるパラメータの3つです。収入が給与収入(額面のこと)と年金収入、支出が生活費や生命保険料です。税や社会保険料は自動で計算されるようにしています。これを横軸に西暦、縦軸に支出や収入の項目が並ぶようにすると表にまとめられます*1。縦軸の項目は大体こんな感じです:

自作のライプランシミュレータの縦軸の項目

支出や収入はソニー生命のライフプランニングで洗い出し済みだったので、それをそのまま入力しました。また、上の図には住宅ローン関連の項目がありますが、持ち家を考えない人は住宅ローン関連の項目を除くとよいでしょう。自作する上で重要なのは、自分に関係のない要素をできるだけ除外して実装コストを安くすることです。ただでさえ所得税や住民税の計算はとてもとても大変です。

また、前述の通りこのシミュレーションでは色々な条件を変えて結果を観察するために使います。したがって、試したい条件を表現するパラメータは次のように選択できるようにしておいた方がいいです:

パラメータが選択可能になっている様子(年数の単位が万円になっているのはミスです)

また、最終的にこの条件で貯蓄額がどう推移するかを調べたいので貯蓄額をグラフにしておくと結果をすぐに読み取れてよいでしょう:

貯蓄額の時間的変化のグラフの例

このようにライフプランシミュレータを自作すれば、手間も時間も少なくライフプランを試行錯誤できます。

自作ライフプランシミュレータのリスク

さて、こうして自作したライフプランシミュレータはどれぐらい信用できるのでしょうか?私はテストマンという職業柄、ソフトウェアは欠陥から逃れられないと考えています。実際に、私のライフプランシミュレータには軽微なバグがたくさん見つかりました。また、控除を大幅に高くしてしまう深刻なバグが1つ見つかりました。もし検証しないまま自作のライフプランシミュレータを信用していたら、深刻なバグにより過大な支出の計画を立てて破産していたことでしょう

そんなことがないように、自作したソフトウェアはたとえユーザが自分だけであろうともきちんと検証しましょう。私の場合は次の失敗に対応するために検証をしています:

  • 失敗:シミュレーションが大幅にずれる(小幅にずれる分には問題ない)
    • 原因:収入や支出が大幅にずれる
      • 原因:収入・支出項目に漏れがある
        • 検証:ソニー生命のライフプランシミュレータで算出された結果と、自作のシミュレータが同条件で算出した結果を比較する
        • 検証:知人のライフプランシミュレータで算出された結果と、自作のシミュレータが同条件で算出した結果を比較する
        • 検証:3年前まで遡って自作シミュレータに入力し算出された結果が、現時点までの貯蓄額の推移とほぼ同じかどうか比較する
      • 原因:入力した収入や支出の項目は揃っているが額が実態からずれている
        • 検証:収入や支出の総額を家計簿アプリで毎月比較する
        • 深刻度緩和:年金など将来どうなるかわからないものについては、一定の係数で減額しておく(私は前述の経済評論家の試算を利用して40%を減額しています)
    • 原因:税・社会保険料の計算式が間違っている
      • 検証:税や社会保険料が給与明細のそれぞれの額と一致するか確認する
      • 検証:税や社会保険料を一般的な条件でグラフなどにおこし、他文献のグラフ(例: 財務省 - 税率・税負担等に関する資料)と比較する

自作ライフプランシミュレータから見えてきたこと

そんなこんなで自作したライフプランシミュレータから見えてきた事実は、今住んでいる家の水準を維持したいならば生活費を引き下げでは足らず自宅を購入するしかない、でした。 また、ローンで老後に破産することなく借りられる上限の額もシミュレーションからわかっているので、この額までの範囲で家の購入を検討していきました。

家購入編

これまでのライフプランシミュレーションで家を購入する決断をしました。次はどんな家を買うかです。

中古・建売・注文どれにするか

家を購入するには3つほど選択肢があります:

  • 中古
    • メリット
      • 値段が安い
      • 支払い金額の不確実性が少ない
    • デメリット
      • 間取りを調整できない(リフォームすると新築と同じ値段になったりする)
      • 候補物件の数はそう多くない
      • 住宅性能が昔の水準(大体最近の方が住宅性能は高い)
  • 建売
    • メリット
      • 値段がちょい安い
      • 支払い金額の不確実性が少ない
      • 住宅性能は今の水準
    • デメリット
      • 間取りを調整できない
  • 注文
    • メリット
      • 間取りを調整できる
      • 住宅性能は今の水準
    • デメリット
      • 値段は高い
      • 土地を買ってみたら地盤が弱くて杭打ち+150万!とかありうる

重要な違いは、値段と間取りの調整可能性です。幸運にも中古や建売でぴったりな間取りを見つけられれば買いだと思います。ただ、だからと言って条件にぴったり合う中古や建売をいつまでも待てるわけではありません。 というのも、自宅を購入する時期は早ければ早いほどよいことがシミュレーションからわかります。理由は簡単で、これから賃貸の家賃を支払う期間が短いほど、自宅購入に当てられる額が増えるからです

さて、中古や建売を探す期間で中古や建売、新築の物件を比較するにはなんらか評価方法を確立しなければなりません。このうち、いずれにも共通して最初から評価できる項目が立地です。最終的には間取りも評価しますが、注文住宅は立地が決まらないと間取りを作れないため立地を絞り込んでおく必要があります。

(なお、ここから先建売は省略します。なぜなら私の好きなハウスメーカーでは建売を取り扱っていなかったため説明できるほど私が詳しくなれなかっためです)

立地を比較するために評価方法を考える

書籍にも書かれていましたが、立地の評価は評価項目を洗い出し表にまとめると比較しやすいです*2。ふんわりした項目も多いので項目に点数をつけて機械的にやるのはちょっと難しそうです。そこでとりあえず、良いまたは普通の項目を白地に黒、よくない項目を白地に赤、かなりよくない項目を赤地に白で表現したところ、これで十分比較できるなと感じました。

立地評価の表の例

なおこの表に登場する項目は人それぞれだと思いますので、洗い出しが必要です。

立地評価の項目を洗い出す

私が洗い出してみたところ次のとおりでした:

  • 手が届く
    • 価格(古家がある場合は解体費用で土地の価格+200万くらいはみた方がいい)
  • 住んでいて気持ちがいい
    • 日当たり
      • 土地が広く隣家との距離を取れる
      • 接道する方位が南
    • うるさくない
      • 騒音施設が近くにない(学校やパチンコ店、航空基地など)
      • 隣接道路の車通りが少ない
    • 臭くない
      • ゴミ集積場が遠い
  • 建物を自由に建てられる
    • 土地が平坦
    • 土地が広い
    • 土地の形状(整形地・不整形地・旗竿地・etc...)がよい
    • 用途地区(第一種低層住居専用・第一種中高層住居専用・etc...)
  • 便利に生活できる
    • 最寄駅が近い
    • 周囲に坂がない(地理院地図2D)
    • 通勤時間が短い
    • スーパーが近い
    • 居住誘導区域内にある
    • 公園が近くにある
    • ゴミ集積場が近い
  • 安全に暮らせる
    • 治安がいい
      • 遊興施設(パチンコ店や居酒屋など)や刑務所が近くにない
    • 災害に耐えられる
      • 洪水で浸水しない
      • 土砂災害で被災しない
      • 津波で被災しない
    • 近所と揉めない
      • 隣接道路が私有でない
      • 隣接する塀が私有でない
  • 万が一の際に高額で売却できる
    • 居住誘導区域内にある
    • 告知事項がない(あるいはあっても許容できる)

また、これらに加えて面積あたりの価格(坪単価や平米単価)も見られるようにしておくと良いでしょう。なぜなら土地の価格は土地の性質を反映して決められているらしい*3ので、面積単価が他と比べて低ければ何か悪条件の見落としがあるとわかります。

他にも周囲の坂の状況を見るには地理院地図3Dが便利です:

地理院地図3Dで渋谷駅周辺をみた様子

それでもこの表を埋めるには不動産のチラシと上記の情報源では不十分なことが多いので、現地に足を運んで確認する作業も重要です。

注文住宅の場合、ここから土地の候補を絞り込んで仮の間取りを作成してもらいます。 ただし注文住宅ではこの時点の間取りに少し不満があったとしても契約後でないと本格的な検討をできないとハウスメーカーから言われる可能性があります。 そのため注文住宅はどうしても見切り発車になってしまうことが多いでしょう。

とはいえ、これで中古・注文住宅の間取りが揃いました。

間取りを比較するために評価方法を考える

これから間取りを比較するための評価方法を考えていくわけですが、住んでも後悔しない間取りが満たす条件はこの時点でわかっていないことが多いです。 こう言われるとソフトウェアエンジニアならあの図がピンとくるでしょう。 そこで家で生活する予定の人たち全員で要求を洗い出し、そして相互に重要度を評価することをお勧めします。この時点である程度の共通認識を作っておくと後で活きてくるからです。

私はこの要求を次のような表でまとめました。重要度スコアは要求出しに参加した者の重要度から算出します:

要求No 要求 カテゴリ 対象 夫の重要度 妻の重要度 重要度スコア
1 夫婦が老後にトイレへ行ける 最低限の生活 夫婦 必ず満たすべき 必ず満たすべき 100
2 子供の幼少期に子は親と一緒に寝られる 最低限の生活 人間 必ず満たすべき 必ず満たすべき 100
3 第一子が自室を狭く感じない(4畳半以上) 豊かな生活 できれば満たすべき できれば満たすべき 7
4 犬を 1F から階段へ侵入させない 生命の安全 必ず満たすべき できれば満たすべき 70
... ... ... ... ... ... ...

この表は最終的に間取りの簡易採点に使えます。他に間取りごとにそれぞれの要求の満足度(今回は「満たさない(重要度スコア0%獲得)」「運用でカバー(重要度スコア50%獲得)」「意識せず満たす(重要度スコア100%獲得)」の三段階で評価)も必要になるので用意します。#N/A になっているのは要求とは無関係なことを意味しています:

要求No 重要度スコア 要求の満足度 夫の満足度 妻の満足度 子供の満足度 ... 犬の満足度
1 100 意識せず満たす 100 100 #N/A ... #N/A
2 100 意識せず満たす 100 100 100 ... #N/A
3 7 満たさない #N/A #N/A 0 ... #N/A
4 70 運用でカバー #N/A #N/A #N/A ... 35
... ... ... ... ... ... ... ...

ここから重要度スコアを満足度で重み付けすれば総合的な満足度と各人の満足度を出せます:

間取り 総合的な満足度 夫の満足度 妻の満足度 子供の満足度 犬の満足度
夫案V1 82% 88% 85% 78% 75%
HM案V1 74% 70% 81% 80% 65%
... ... ... ... ... ...

ここで各人の満足度を出しているのは公平性を見るためです。

なお、この要求リストには大量に漏れている要求があることを覚悟してください。 そのため、この時点ではこの要求リストにある要求が全て満たされたとしても、住んだら後悔する家になってしまったということがありえます。 例えば、私の場合「階段上がってすぐ正面に扉がない(扉の開閉時に人がいると階段側に押してしまって危ない)」や「浴室が開戸ではない(開戸だと中で倒れた人を救助できない)」などは思いつきもしませんでした。 このような漏れている要求を洗い出すために、間取り図の模写と、家具配置や生活、収納のシミュレーション、第三者へのレビュー依頼をするとよいです。

今後のシミュレーションのために間取り図を模写する

シミュレーションの前に、図面記号の意味を確認しながら間取り図を模写することを強くお勧めします。 私の場合、間取り図を読むだけだと隠れた問題を見逃していることが多くありました。つまり間取り図を眺めるだけでは内容を理解できていなかったのです。

また、模写はデジタル・アナログのどちらでも適した方法がありそうです。

家具の配置シミュレーションをする

家具(ベッドやダイニングテーブルなど)の寸法を測り、間取り図に当てはめてみると家具の配置をシミュレーションできます:

家具の配置シミュレーションの例

このシミュレーションでは、主に部屋の広さに関する問題が分かります。実際に、部屋は狭くてもいいですと最初思っていた私が部屋の広さの重要性を痛感したのがこのシミュレーションです。

私はこのシミュレーションに Inkscape を使いましたが、アナログの場合は紙を切り取って家具にして移動しながら試しつつバージョン履歴は写真で残すとよいでしょう。

生活の変化のシミュレーションをする

家具の配置シミュレーションはある時点での家具配置をシミュレーションしていますが、時間変化にともなう部屋の割り当ての変化や家具配置の変化は考慮できていません。 そこで、老後や生活する人の構成の変化(子供の誕生、子供の自立など)などのタイミングで時間を区切り、それぞれの範囲での家具配置をシミュレーションしてみましょう:

生活の変化のシミュレーション

すると、老後や生活する人の構成の変化時に苦しい家具配置になるリスクを事前に把握できます。注文住宅なら間取りを調整するための材料にもなります(開戸にするか引戸にするかなど)。

収納のシミュレーションをする

これまでのシミュレーションとは少し毛色が異なりますが、収納のシミュレーションも効果があります。次のように収納すべき物品の収納場所をリストアップするだけでシミュレーションができます:

所有者 品名 収納場所
共用 非常用飲料水 階段下
書籍ブロック 書斎本棚
書籍ブロック 寝室本棚
... ... ...

この書籍ブロックとは、書籍を並べて幅30cmほどにまとめた塊のことです。書籍は一冊一冊を区別して扱うとリストが膨大になりがちなのでまとめて扱った方が管理しやすいです。

さて、表計算アプリケーションのフィルタ機能を使えば、ある収納場所に収納される予定の物品を洗い出せます(この例では階段下に収納される物品を一覧しています):

所有者 品名 収納場所
共用 非常用飲料水 階段下
共用 非常用トイレ 階段下
共用 非常用食糧 階段下
共用 非常用コンロ 階段下
共用 アイロン台 階段下
... ... ...

これによって、収納場所に入らないほどの物品を収納しようとしていないか確認できます。

第三者にレビューしてもらう

間取りに求める条件を洗い出す上で、第三者に間取り図をレビューしてもらうことはとても参考になります。実際に、前述の「階段上がってすぐ正面に扉がない」や「浴室が開戸ではない」はいずれも第三者に間取りをレビューしてもらって出てきた要求でした。このレビューアには間取りを自分で過去に選んでその物件に住んでいる人を選ぶとよいでしょう。

レビューの代わりに家事のシミュレーションをする

なおレビューアに心当たりがない場合は、さらに家事のシミュレーションをするとよいかもしれません。私がこれまでレビューアに指摘された問題の傾向から、レビューで発見される問題は家事のシミュレーションでわかる問題が多いことがわかっています。というのも、不便に慣れてしまっていて改善できる点に気づいていないことが多かったようです。例えば、次のような動作・道具・場所の3列の表で家事のシミュレーションができます:

動作 道具 場所
洗濯槽の糸屑を取り除く 洗濯乾燥機・ゴミ箱 脱衣所
洗濯籠から洗濯物を取り出す 洗濯かご 脱衣所
ポケットの中身を確認する 洗濯物・ゴミ箱 脱衣所
... ... ...

このシミュレーションでは、道具がどこで必要になるか、どういう移動が発生するかを確認できます。これによって、道具の収納場所をなるべく近くへ配置したり家事導線をなるべく短くするといった改善ができるようになるでしょう。また、家事だけでなく外出や帰宅、在宅勤務も同様の手法でシミュレーションができるはずです。

物件の比較の結論

これらの条件で比較したところ私は期間内に良い中古物件を見つけられなかったので、老後まで破産しない範囲で支払える価格の注文住宅を購入することにしました。

注文住宅を購入する

ここからは注文住宅に絞っての作業になります。作業全体の流れは次のようになっています:

全体の流れ

予算を確認する

まず、予算を求められるので前述のライフプランシミュレーションの結果から、老後の生活費が残る無理のない予算を伝えます。

土地を検証する

これまでは土地を比較するために評価をしてきましたが、これからは土地に問題がないかを確認するための検証になります。 ただ、土地は注文住宅・中古住宅の比較の時点で評価が済んでおり、問題は許容可能と判断しているはずです。かつ土地は住宅と違って頑張っても改善できませんから、ここで追加でやることはありません。

間取りと窓を検証する

土地の次は間取りと窓を検証します。前述の通り注文住宅では間取りが見切り発車になっているので、すでにわかっている問題もあるでしょうしまだわかっていない問題もあるでしょう。したがって可能な限り問題を洗い出すために検証をしてゆくことになります。そこで前述の自作ライフプランシミュレータのときと同じように、識別したリスクへ対応するように検証を組むことにしました。

ここで問題になったのが、間取りの検証では見逃している要求があるかもしれないというリスクです。当時はこのリスクに対応する検証を思い付きませんでしたが、振り返るとこの検証を補っていたのは間取りの候補を大量に考え、レビューしてもらうことでした。今回は私は46の間取りの候補を作りましたが、作っては第三者にレビューしてもらうごとに隠れた要求が見つかっていったのを覚えています:

46の間取りの候補

なお、もともと間取りの候補を自作していた目的はハウスメーカーに任せきりにせずよりよい間取りを見つけるためでした。 というのも、間取りを建築士に作ってもらえる回数はそんなに多くないからです。 私の選んだハウスメーカーの場合、間取りを建築士に作ってもらうための期間が1ヶ月で1週間に1回程度の打ち合わせですから、たった4回の打ち合わせで間取りを決めることになります。 この打ち合わせで建築士が顧客から打ち合わせでフィードバックをもらいながら間取りを作るわけですが、たった4回のフィードバックでまともな間取りになることは期待できません。そのため、何度もフィードバックをかけられる間取りの自作を選んだのでした。

間取りを自分でも考えてみる

目的はどうあれ、間取りを自分で考えるには2種類の間取りのルールを覚える必要があります。

1つめは一般的な間取りのルールです。例えば玄関開けてすぐにトイレがあると来客がある時にトイレへの出入りが恥ずかしいからやめる、階段下にはトイレか収納くらいしか作れない、などです。私は「間取りの方程式」という本で学びました。

間取りの方程式

間取りの方程式

Amazon

2つめはハウスメーカー独自のルールで、柱の最低限の間隔や壁の厚さ、天井の高さ、ドアの高さに関するルールなどです。こちらはハウスメーカーから聞き出しておきましょう。

外壁はプロに作ってもらう

外壁は建蔽率や容積率や、ハウスメーカー独自のルールが関わる難しい部分なので最初はプロに作ってもらったものを利用すると良いでしょう。例えば一回めの打ち合わせで出てきた図面の外壁を利用できます。

次にこの外壁の中身を 305mm グリッドの間取り図で埋めていきましょう。

305mm グリッドで間取り図を作成する

1辺を 305mm にしたグリッドでは、3x6マスの18マスで1畳になるため畳数の計算が楽です。 また多くの要素の大きさがこのグリッドで表現できます:

  • 通路幅: 3マス
  • トイレ: 3x5マス(狭くていいなら3x4マス)
  • 浴室: 6x6マス(狭くていいならもうちょっと削る)
  • 階段: 階段の種類によるので割愛

これを使って次のような間取り図を書きます:

305mmグリッドの間取りの例

この時点で、自己評価をしたり第三者にレビューしてもらったりすると気付いていない要求をたくさん見つけられます。

閑話:間取りの自動生成

ソフトウェアエンジニアなので間取りの自動生成も試みましたが、道のりは長そうなので諦めました:

自動生成された間取り(CLはクローゼット)

要求リストによる検証と収納シミュレーションによる検証をする

考えた間取りの検証には前に作成しておいた要求リストが使えます。また収納シミュレーションでも検証できます。

なお家具の配置シミュレーションと生活の変化のシミュレーションについては壁厚を考慮した方がよいので、壁厚を考慮した現実の建物に近い図を作成していきましょう。

壁厚を考慮したより現実の建物に近い図を作成する

間取り図からハウスメーカーに聞いておいた壁厚を考慮した現実に近い図に起こしてみましょう:

壁厚を考慮した現実の建物に近い図

この図を描くことで、305mmグリッドでは無視していた壁厚による問題を発見できます。 例えば305mmグリッド上では915mmあるはずの隙間が実際には壁厚を引くと800mmぐらいしかないなくて家具をおけなかったという悲劇を防げます。

家具配置シミュレーションと生活の変化のシミュレーションをする

この時点で前に紹介した家具配置シミュレーションと生活の変化のシミュレーションをかけられます。 ここからはさらに一歩進んで、間取りの見え方や採光も評価してみましょう。

3D に起こして間取りの見え方を検証する

詳細な図面を手に入れられれば 3D におこして空間の見え方や採光を評価できます。

3D に起こすだけなら一点透視図法がいろいろなところで紹介されていますがこれには危うい点があります:

一点透視図法の例

1点透視図法を紹介する文献ではほとんどが壁の高さを適当に決めています。しかし人は壁の高さで部屋の広さを錯覚します。 壁の高さが高いと部屋を狭く感じ、壁の高さが低いと部屋を広く感じます。そのため、高さを正確に再現することは部屋の広さを評価する上でとても重要です。

また、採光シミュレーションをするなどの理由もあって、一点透視図法ではなく無料の 3D 統合環境アプリケーションである Blender を使っていきます。 私自身も Blender は今回初めて使ったのですが、少し慣れるだけで強力なシミュレーションができるようになるのでお勧めです。

下準備
高さの目安の準備

前述の通り、高さは重要なので間取りの中に以下の高さの目安として使える目盛りを書き込んでおきます:

目盛りを書き込んだ図面

Blender に jlampel/extra_lights を入れておく

採光シミュレーション時に jlampel/extra_lights を使うので入れておいてください。

github.com

間取りの見え方を確認する

文章では伝わりづらいので壁を立てて窓を開けて太陽を追加するまでの動画を用意しました。この動画は Blender を使ったことがない人でも同様のシミュレーションを再現できるようになるべく操作の種類を限定しています。

youtu.be

ここから先はここで作成した 3D モデルを利用していきます。

3Dモデルで窓を検証する

3Dモデルを使えば窓の採光をシミュレーションでできます(スクリーンショットの3Dモデルは動画で説明したより少し高度な技術を使ってディテールを上げています):

窓の採光のシミュレーションの様子

ここからは窓の採光をするために隣接する建物の再現と、Sun Position プラグインを利用していきます。

隣接する建物を再現する

窓の採光シミュレーションを正確にするため周囲の建物を Google Map の航空写真などから再現しておくとよいでしょう。 間取り図を取り込んだ時と同じ方法で航空写真のスクリーンショットを取り込めるので、そこから壁を立てるのと同様に Add Cube で建物を作れます。

Sun Position プラグインで日照をシミュレーションする

太陽の位置は、緯度経度、日付、時刻によって位置を決められます。 これを助けてくれるプラグイン「Sun Position」は Blender に標準で組み込まれていて、しかし無効になっているので有効にします:

設定から Sun Position プラグインを有効にする

このプラグインに緯度経度と日付と時刻を入力すると、太陽の位置をシミュレーションできます:

緯度経度と日付と時刻を入力

これを続けるうち、ある特定の位置の春分・夏至・冬至の1時間おきの日照が知りたいと思うようになった場合は Blender のアニメーション機能を使うと一括でレンダリングできて便利です。Frame ごとに太陽の位置を変えて Render Animation すると一連の画像を一括で出力できます。たださらに記事が長くなってしまうのでこのやり方は割愛します(Sun Position とアニメーションの相性が悪いのが鬼門)。

これまでで日照がシミュレーションできるようになったため、窓も評価できるようになります:

時間の条件を揃えて窓を評価

詳細図面を検証する

これまでの作業で、ハウスメーカーから出された間取り図を検証できるようになりました。 これで受け入れに値する間取りが決まり、次は照明やコンセントの位置が書き込まれ詳細な平面図を出されました(ハウスメーカーによっては流れが違うかもしれません)。 そこで新たに書き込まれたコンセントや照明とそのスイッチも評価してみましょう。

コンセントを検証する

コンセントで重要なのはその位置と、コンセントに付随する TV 線や LAN コネクタの受け口をどこに配置するかです。 なお、コンセントが目立つ位置にあると外観を損ねるためできるだけ目立たない場所に必要最低限の数だけ置くことが理想的です。

そこで、このようなコンセントの過不足を見つけるために家電リストとこれを繋ぐコンセントとの対応関係をまとめると良いです:

品名 常設 対応するコンセント
テレビ TRUE あり
ゲーム機 TRUE あり
ルンバ TRUE なし
ミシン FALSE なし
... ... ...
コンセントの位置 TV 線 LAN ポート アース 口数 接続予定1 接続予定2 ... 接続予定N 一般的用途 必要性
リビング南西端 あり あり なし 2口 テレビ ゲーム機 ... テレビ あり
リビング西中央 なし なし なし 2口 ... 掃除機 あり
リビング北西端 なし なし なし 2口 ... なし
... ... ... ... ... ... ... ... ... ... ...

ここで重要な点が2つあります。(1) 接続されていない家電を見つけられるように家電リスト側で常設する家電に対応するコンセントがないものがあれば NG とするようにすること、(2) 何も接続されず一般的な用途も思い浮かばないコンセントがあれば NG とするようにすること、です。(1) は本来必要だったはずの場所のコンセントを見つけるための工夫で、(2) は不要なコンセントを見つけるための工夫です。一般的な用途も考慮している理由は、収入の減少などでもしもの際に住宅を資金へ変える必要が出た場合になるべく良い条件で売れるようにするためです。

また、接続する家電にLANケーブルやTVケーブルが必要なことがあるので、接続予定のコンセントにそれらの受け口がついていることも確認しておきましょう。

照明を検証する

照明は Blender 上で検証できます。前掲の動画では太陽以外の光源の追加方法を説明していませんが、照明に相当する光源の追加はそこまで難しくありません。Blender の「Add」>「Light」から、シーリングライトやダウンライトなら Area Light *4を、壁づけの照明では Point Light を選べば問題ありません。このようにして追加した光源は動画で説明している g<軸> キーによる移動で動かせるので、図面と同じ位置に配置します。光源の明るさは LED のW数や白熱球での相当W数をそのまま使うのではなく消費電力の30%程度にします*5(4.1W の LED なら 4.1W の 30% である 1.23 W を光源の強さに設定するということ)。色は色温度から RGB を計算できればいいのですが、なかなかに面倒な計算なのでざっくりでいいと思います。

こうして光源を追加してレンダリングしてみると最初は暗く感じるはずです。これはカメラの露出の問題です。デフォルト値の1.0の露出では直射日光の当たる外にちょうどいいぐらいの露出なので、Blender の Render Properties の Film の Exposure を 1.0 から 3.0 ぐらいへ変えてあげると、室外は白飛びしますが室内にちょうどいい露出になります:

露出1.0のレンダリング結果

露出3.0のレンダリング結果

このようにすると、照明が少なく暗い場所の発見や照明を減らして明るさをみる実験が可能になります。実際に、下曲がり階段の曲がっている危ない部分が暗いという問題をこの検証で発見できました:

下曲がり階段の曲がっている部分が暗い

スイッチ位置を評価する

照明のスイッチの数と種類も重要です。いくつかの例外はあるものの、一般的には照明が配置されている空間に接続されている経路数とスイッチの数は一致した方がよいです。例えば玄関ホールが玄関とリビングに接続されていたとして、外出・帰宅での照明の点灯の流れを考えてみると、出入り口それぞれにスイッチまたは人感センサーが必要であることがわかります(接続されている経路数2に対してスイッチ数が2ということ)。主な例外は、玄関(屋外と屋内の2経路が接続されているが屋外にスイッチは配置できない)、狭い空間(空間内に1つスイッチがあれば十分)です。

また、スイッチには通常のスイッチ以外に暗闇で探しやすいホタルスイッチや稼働時が分かりやすいパイロットスイッチ、あるいは自動でスイッチを切り替える明るさセンサーや人感センサーがあります。これらが意図通りかどうかを確認するために次のような表を作るとよいでしょう:

照明スイッチの評価

この表に照明スイッチの種類、設置されている空間に接続されている経路の数を入力することで、照明スイッチの過不足を発見できます。また、ついでに 3D モデルでは評価し辛かった影や反射の方向も確認しておくとよいでしょう。これによって、影や反射によって本やスマートフォンが読みづらくなる問題を発見できます。

窓の 3D モデルで評価できてないない部分を検証する

3D モデルでの窓の検証で見落としがちなのが、窓の網の有無や曇りの有無、開き方向です。 これらは次の表で検証できるので 3D モデルでの検証に加えてやっておくと良いでしょう。

窓の位置 種類 下枠高さ シャッター 開口方向の臭気源 外側の掃除方法 カーテンレールと建具の干渉
リビング南 引き違い 掃出し なし なし あり なし 1F なので外から なし
ダイニング南 竪すべりだし 12高窓 あり なし なし なし 1F なので外から なし
子供部屋東 はめ込み 腰高窓 あり あり なし なし なし なし
... ... ... ... ... ... ... ... ...

VRゴーグルで中を歩く

この記事も長いので詳細はかけませんが、3D に起こしておくと VR ゴーグルで中を歩けるようになります。なお VR についてはcocopon 氏の記事がとても参考になります(なんなら機材まで借りてしまったので頭が上がらない)。

VR を使った感想ですが、cocopon 氏の記事にもある通りものの大きさや位置がよくわかります。特に VR は収納や窓の高さの評価で重宝しました。収納が高すぎて利用できない、窓が高すぎて開けられないなどが一目でわかります。

外構を検証する

外溝は 3D を使って検証しました。

ここで 3D で確認したのは、(1) 自転車などの屋外備品の配置があっても通行の妨げにならないか、(2) 夜間暗くないか、の二点です。このうち (1) は大きさがわかりやすい VR を使うとよくわかりました。結果として自転車が邪魔だという問題が発見されたので歩行用コンクリートの配置を変えました:

自転車が微妙に邪魔なので避けるように歩行用コンクリートの位置を移動した

また、(2) については照明の検証と同じやり方でできます。こちらも暗すぎるということがわかったので照明の追加配置をしました:

とても暗いので照明を追加することにした

見つかった問題を振り返る

これまで新築住宅についてさまざまな評価をおこなってきました。これによって見つかった問題を振り返ってみます。以下は、ハウスメーカーから渡された図面の問題にどの検証方法で気づいたかをまとめたものです:

検証方法 効果の度合い(見つかった問題を
深刻度で重み付けして割合を集計)
図面模写 18%
共同生活者レビュー 11%
3Dモデル構築 10%
3D日照と照明の評価 10%
コンセント評価 9%
窓の3D以外の評価 8%
収納の評価 8%
スイッチの評価 4%
換気システムの評価 3%
VR 3%
照明の3D以外の評価 3%
生活変化のシミュレーション(注1) 3%
家事シミュレーション 3%
その他(唐突に思いついたなど) 7%

注1: あまり効果がないように見えますが、中古住宅の間取りの評価では効果が高かった体感があります。注文住宅では最初から生活変化を織り込んだ間取りからスタートしたから元々問題が少なかったのかもしれません。

この表を見ると突出した検証方法がなく、どれか1つの検証をやっておけば安泰といった状況ではなかったことが見て取れます。つまりコストの許す限り多彩な検証方法で問題を見つけ出すことが重要なのでしょう。 なお、突出はしていないものの、図面の模写、住民レビュー、3Dに起こしての評価の3つが効果の高い検証方法なようです。

おわりに

この記事では、家を買うきっかけになったライフプランシミュレーションと、住宅に関する各種のシミュレーションについて紹介しました。 中でも 3D におこしてのシミュレーションは大変ですがやるだけの価値があります。実際に窓の個数や形や位置、照明の個数や位置に悩んだときに答えを与えてくれたのが 3D シミュレーションでした。

この記事が読者の皆さんの住宅購入の参考になれば嬉しいです。

*1:cocopon氏の記事にあるとおり縦軸に時間をとった方が見やすいはずで、この部分で私は選択を誤りました。いつか転置して直したいのですが開発・検証コストを鑑みてしばらく直すことはなさそうです

*2:千日太郎, 家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本

*3:千日太郎, 家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本

*4:Power of Light - Blender Manual には 800lm の LED 電球は Point Light と書かれていますが、これは全周囲への光の放射を想定していると思われます。ダウンライトは下方向以外の光を下へ反射させているので、反射材をモデルに組み込むより下向きの Area Light を使ってしまった方が楽です。

*5:Blender の Point Light や Area Light の単位は W ですが、これは照明の消費電力ではなく可視光の仕事率だと思われます。LED の電気エネルギーから可視光のエネルギーへの変換効率が30%程度なので、消費電力の 30% 程度を設定します。このようにして計算した W は Power of Light - Blender Manual の値とも近いです。