本記事は guyon さんからいただいた「レジリエントマネジメント」の書評です。
総評
守破離の守に役立つ易しいマネジメント本であると思います。本書に書かれていることは、それなりのマネージャーなら意識せず実践していることが多く、これを実践できていないマネージャーには大変役立つでしょう。マネージャー初心者はまず本書のレベルを目指すべきです。
なお守破離の守より後ろのレベルの方々にとっては、ファクトの不足による応用の難しさと先進的な要素の不足による創造の難しさの2つを感じると思います。ファクト面では扁桃体と BICEPS 以外のファクトは登場せず、本書に書かれている以外のことを実践するときの予測に別の本を必要とするでしょう。また本書に書かれていることに新奇なことは登場しません。オーソドックスでどの組織でも使える普遍的な方法ばかりが書かれています。そのため創造的な発想の源にはならないでしょう。ただ、本書はそういう選択のもと書かれていると思います。
私の選好
私がどういう属性の人間かを知ることは、あなたが私の書評からあなたの書評の推測(=本書を買うべきか否かの判断)に役立つと思っています。 そのためまずは私の選好を書いておきます。
私はシステマチックで感情を抑制したマネジメントを好みます。 それが平均的にうまくいく方法だと信じているからです。 これは著者の方とは重視するところがかなり異なるマネジメントスタイルであるといえると思います。
また私は統計的なファクトを重視します。 平均的にうまくいく方法をシステマチックに見つける上で、統計的なファクトを知っておけばテーラリングの際に余計な試行錯誤をしなくて済みます。 そのため技術書にはサンプルより統計的なファクトを求めます。
これらの私の選好のため、私は本書に対してファクトの不足とシステム的な方策の不足への不満を感じました。
Chapter ごとの書評
以降は Chapter ごとの率直な感想です。
Chapter 1: チームとの出会い
本書では BICEPS を侵害して扁桃体を作動させてしまうことを地雷として扱っています。 ここで私は BICEPS はどのような実験で確かめられたのかを疑問に思いました。 できれば簡単にでいいので実験方法やその結果を書いてほしかったです。
あと地雷原にもっと別種の地雷があるんじゃ?というのは思いました。 私は BICEPS では触れられていない核心的なニーズとして「共同体への攻撃」と「個人の失敗の経験則」があると思っています。 この2つは私にとってとても重要だと感じるし、なんなら私の前職の離職の引き金になったコミュニケーションエラーは「共同体への攻撃」に私の扁桃体が反応したところから来ていると思っています。 それでも、BICEPS は確実に地雷だと思います。 これらを LLM などに評価軸としてインプットしておくと、メッセージ送信前で意図せぬ地雷を踏み抜いていないかのチェックなどに使えると思います。
Chapter2: チームメイトの成長を支援する
マネージャーの能力について。概ね同意できますが当たり前のことばかりのようにも感じました。
一点だけ気になったのは、著者の方は「責任」をどう定義しているのかです。 責任ベン図などが出てきますが、責任の定義が曖昧なので何を意味しているか、何に使えるかが曖昧になってしまっていてもったいないと思いました。 あと多分本質的には表したいことに対してベン図は適していない気がします(多分と濁したのは著者の思う責任の定義がわからないため)。
Chapter3: 明確な期待を設定する
ここも当たり前のことが書かれています。
細かいところですが、ミッションとビジョンを分けた理由は説明を読んでかつ実例を見てもわからなかったです。 私の考えについても説明しておきます。 私はミッションとビジョンを分けません。 私はいつもチームには解くべき問題を設定します。 ここで問題とは理想と現実のギャップです。 このギャップを埋める手段は複数ありえます。そのため手元のリソースや時間制約などを勘案してもっとも良い手段を選ぶ(選んでもらう)というプロセスが必要になります。 この手段の評価関数が戦略です。 本書でも似たようなことが書かれていて、ただこの理想をビジョンとミッションという2つに分けています。 私はいつもこれを1つにしているのでなぜ2つに分けているんだろうということを疑問に思ったのでした。
Chapter4: 効果的なコミュニケーション
包括的であるとは感じませんでしたが役立つチャプターだと思います。 総括メールはいい方法だなと思いましたし、前職の社長も似た手法を取っていていいなと感じたことを覚えています。
ただやり方がいずれも普遍的な前提に立脚しているので役立つシチュエーションは広いが深くは効かないなあと思いました(多分そういう選択なんでしょう)。 たとえば、こういうツールがあったら、こういうルールがあったら、のように前提を強くするとより深く効く手段を選べるようになり、このように前提を強くすることをマネージャーはできますしやるべきです。 そういう創造的な部分はあまり刺激されないチャプターでした。
Chapter5: 困難を乗り越える力を高める
この章が一番面白かったです。 特に会議のコンテキストスイッチを最小化するための色付けとデフラグは面白かったです。 現職でも前職のように会議が増えてきたらやってみようと思いました。
まとめ(再掲)
守破離の守に役立つ易しいマネジメント本であると思います。本書に書かれていることは、それなりのマネージャーなら意識せず実践していることが多く、これを実践できていないマネージャーには大変役立つでしょう。マネージャー初心者はまず本書のレベルを目指すべきです。
